生徒の話

越谷北高校に合格した生徒の話。

テニス部のK君


私が講師としてある塾に勤めていたときに出会ったテニス部のK君。中学2年生の頃に私が担当になった。

 

その子は初めて見たときから「完成されてるなー」という印象を受けた。寡黙でこちらからの質問以外で口を開くことはあまり無い。かといって暗い印象はなく好青年。なんたってテニスをしているからね。おそらく精神的に同学年の子よりも少し大人なんだな、と解釈していた。

 

勉強は堅実でミスが無い。それを裏打ちする努力量も垣間見えていた。私は当時の塾長と相談し、私が担当する数学の教材を普通のワークからレベルの高いものに変え、それをバリバリ攻めていった。K君は、私の出すそこそこ多い課題も全てこなし、その上で自学もしていた。全てが順調だった。1年を通じてバイオリズムに波もほとんどなく、部活動の大会があったその日も、塾で淡々と授業を受けていた。

 

しかし1度だけ波打ってしまった時があり、それが入試の1週間前、インフルエンザだった。きっと根を詰めて勉強していたのだろう、初めて塾を休んだ。内申は十分、学力的にも楽々合格できる確信はあった。だが入試直前に顔を合わさずに会場に送り出すことは心配だった。

 

入試前日、塾では受験生を呼んで勉強会のようなものを開いていた。すると、なんとそこにK君が顔を出してくれた。親御さんが車で送ってきてくれたのだ。ほぼ1週間ぶりに見る彼は、マスクをしてまだ辛そうだったが目には闘志がこもっていた。私は「もう大丈夫だから体調を少しでも回復させるように」と伝え、他の講師への差し入れとして買っておいた「カレーパン」を彼に手渡して待っている車へ帰らせた。今思えば、インフルエンザの時にカレーパンなんて絶対に食べられない。でも彼は、私のカレーパンをエールとして受け取ってくれ越北に合格した。