読書感想文「ちょっと今から仕事やめてくる(北川恵海著)」」

「ちょっと今から仕事やめてくる(北川恵海著)」を読んだ。

それは誰の為?


ブラック会社という言葉が出てきて久しいが、その犠牲になる必要は無いというメッセージの伝わるさわやかな話だった。

 

私は大卒で入った企業で月の残業時間が200時間を超えていた。もちろんサービス残業だ。1日2時間くらいしか眠れない日が続くこともあり、意識朦朧として視界に常にモヤがかかっていた。当然良い仕事などできるはずもなくミスを繰り返した。今考えるとそんなこと「自分次第」でどうにもなることなので、別にその時の会社をブラックだと断罪するつもりもない。そこで働き続きられる人もいる。ただ自分が仕事の出来ない人間だっただけだ。

 

しかし今になって改めて思うのは、「自分は空気に支配されていた」ということだ。なんとなく、残業するのは当たり前、上司が帰るまで帰らないのは当たり前、土曜・祝日は出社するのが当たり前。ギスギスした人間関係(私の同期は上司からいじめにあっていた)の中で、私をはじめ多くの若手社員たちはそんな空気感に捉われていたと思う。私はそれに耐えられず退職した(退職の日、使っていたパソコンから私が増設したメモリーが抜き取られていたのには笑った。やるよそんなもん)が、辞めた後に家族から「顔つきが穏やかになった」と言われた。環境は人の顔つきさえ変えてしまう。物語の主人公が仕事でどんどん追い詰められて極限に至るまでに考えていったことが「あー、あったあった」となんだか他人事ではなかった。

 

この「ブラック」というものの正体は「同調圧力」だ。「他の人もやっているから空気を読め」と迫ってくる。これを言葉に出してしまうとパワハラでブラックたるゆえんだけれど、言葉に出ないが迫ってくるものも多い。私はそれに捉われてしまった。

 

しかし今になって考えてみると、「そんなの関係ねぇ」なのだ。会社から求められているのはあくまでも仕事の成果で、そこに集中すべきだった。そして限界を超える前に休むべきだった。私はそれができなかった。そこが自分の若き日の「仕事のできなさ」だったなぁと反省する。周りの目を気にしていて、自己犠牲によるエクスキューズを求めていた。私は事なきを得たが、この物語ではブラック企業に勤めている人に対してそんなメッセージを伝えてくれる。仕事だけでなく、「今辛い」人たちに読んで欲しい1冊だ。

 

勉強の現場でも、「形」だけの作業に捉われてしまう子がいる。「自分は頑張っている」とアピールしてしまう子だ。勉強が自分自身にではなく外、先生に向かっている。それでは勉強はできるようにならない。

 

気を付けないといけないのは、勉強の場でそれをやってしまうと自分の為にならないばかりか、それが癖になってしまい将来会社でもそうした不必要な自己犠牲をしてしまいかねないことだ。勉強はあくまでも「自分の為」。我をもっと出していい。

 

私が前述の会社に勤めていた時に兄から「自分の為にならない残業はしなくていい」と言われたことがある。自分の為になるかならないかを考えることが、仕事に対して「自己責任」の意識を持たせるということだ。他人に押し付けられた責任でなければ前向きに取り組める。勉強もそれと同じだ。空気なんて読まなくていいから、自分の為にやっていって欲しい。