自動車の免許を取るために教習所に行ったとき、何もかもが初めてのことだった。
私の家族は誰も自動車免許を持っていなかった。だから私が物心ついてからずっと、家に自動車を所有していたことが無かった。タクシーなど人に乗せてもらうことはあったけれど、車の操作はおろか、自動車関連用語など知る由も無かった。そんなもんだから、ワケの分からないまま教習車に乗ったときに、教官に
「はい、ウインカーを右に出して」
と言われて焦った。う、ういんかーって何?ういんく?右に向かってすればいいの?いやそんなわけないよね。冗談はよしてよもう。あれ、教官真面目な顔してる。これマジなやつ?聞き間違いかな。もしかして、ういんたー?それなら分かる。ういんたーを楽しむ人のことかな?広瀬香美を聞きながらスノボとかする人のことかしら。じゃあ「右に出す」ってなんだ??
…
それくらい自動車とは縁遠い生活をしていた。その後も「ギアをパーキングに入れて」や「サイドミラーで確認して」など、私には知らない国の言葉に聞こえる指示をずっと出されながらの教習が終わった。終わったあと、私は冷や汗でびっしょりだった。
おそらく勉強で躓いてしまった子は、学校でこんな気持ちなんじゃないだろうか。私の教習所通いはやりたくてやったことなので良いが、勉強で躓いてしまった子供はやりたくなくても1日数時間この状態でじっと耐えていなくてはならない。相当苦しいだろう。そういう子は、ちゃんとウインカーを教えてもらえる場所に早く行ったほうがいい。