アゲハチョウ

子供の頃、アゲハチョウを飼ったことがある。飼ったと言ってもそんな大層なものではなく、見つけた幼虫をもと居たみかんの枝ごと虫かごに放り込んだだけのものだったが。アゲハチョウの幼虫は危険から身を守る時に角を出して威嚇する。それはどことなく柑橘系の匂いがした。

 

さてその幼虫だが、持ってきた枝に付いていた葉をあっという間に平らげた。私ははじめその食事風景が面白く何度か葉を放り込んでは眺めていたが、やがてそれにも飽き次第に虫かごを覗くことは無くなっていった。

 

2,3週間ほど経った頃だろうか、幼虫はサナギになっていた。それを見て驚きはしたが、幼い私は動かないサナギにもすぐに飽きてまた放置した。しかしさらに数日後、サナギはついに蝶になった。

 

20センチ四方ほどの小さな虫かごの中で羽をバタつかせている蝶を見た私は「幼虫から成虫へと育て上げた」ことに興奮し、再び蝶を観察した。しかし私の育てた蝶は、自分の知っているアゲハチョウよりも一回り小さく、モンシロチョウほどの大きさしかなかった。おそらく幼虫期に与えたエサの量が足りなかったのだと思う。

 

その事実にショックを受け、私はそうしてしまった罪悪感から逃れるようにその蝶を逃がすことにした。自宅アパートの3階の窓から健気に飛んでいくアゲハチョウを見て私は「育てる」ことについてはじめて何かを思った。

 

育てるとは時間と手間のかかる作業だ。育てる側に愛情が無いと、蝶の羽は大きくならない。