自分の原体験

学生時代に家庭教師のアルバイトで「オール1」の生徒を指導したことがある。

 

別に学校に行けていないわけじゃないし素行が悪いわけじゃない。普通の男の子。そして普通に学校に通っていてオール1。今ならなぜそんな成績になるのか詳しくご両親から話を聞くが、その時は「そんなものか」くらいに思っていた。

 

指導が始まると確かに問題は全く解けない。中3の段階で数学の力は小学校4年生くらいだった。でも受け答えはちゃんとしてる。挨拶もできる。これならいいける、と思った。保護者の方からの要望は「なんとか高校に入れて欲しい」だったし、私はまだ自分の力を過信していた。

 

指導が始まって少しして、生徒が暗記テストでカンニングをした。成績の理由はこれか、と思った。学校でも常習なのだろう、割とあっさりやった。学校の先生に見つかっていたかどうかは知らない。しかしこの逃げ癖を直さない限り成績は上がらないと思った。私は生徒宅で即座にブチ切れた。お母さんが心配して部屋に入ってくるほどだったが関係ない。ここで変わらなければ学力を伸ばすことなんて無理だ。私はクビになる覚悟でヤンキーよろしく巻き舌で怒鳴り散らした。生徒は辞めなかった。根性があるなと感じた。そこから私も本気になった。時間の許す限り生徒宅で指導を続けた。数学はなんとか中学生の計算、英語は簡単な文法と英文読解くらいまではできるようになっていった。

 

ある日指導が終わりお母さんと話をしていると、

 

「最近ウチの子に口喧嘩で負ける」

 

と言われた。なんでも「口調が先生(私)に似てきた」とのこと。私の思考回路を自分にコピーしてくれているようで嬉しかった。勉強は「真似る」こと。お子さんを生意気にさせてしまった申し訳なさと学びを実践してくれている喜びを感じた。

 

受験期、都立高校第一志望で私立高校の併願校を1校立てていたが、直前になりもう1校私立校受験を増やすことになった。聞くと「学校の先生に『受けるよう』言われた」と。その学校は偏差値こそ37だったが、保育科のある専門コースの学校だった。私の不安は的中し、その学校には不合格になった。聞くと面接があったのに、中学校では何も対策がなかったということだった。明らかに学校のリサーチ不足でその子に土が付いた。私は憤ったが、その後私が勧めた私立高校は合格だったので生徒のメンタルはなんとか保つことができた。

 

そして都立高校受験。受験するのは偏差値44の高校。通知表は明らかに足りていない。学校の先生にも考え直すよう言われていた。が、もう揺るがなかった。受験し、無事合格。

 

最終日、生徒のご両親が私を食事に誘ってくれた。

そこで私が

 

「学校の先生に『ざまあみろ』って言った?」

 

と聞くと、その生徒は

 

「そんなこと言いませんよ」

 

と返してきた。どうやら全く私には影響されていなかったようだ。本当に良かった。